閉店間際の時間だった
携帯電話が鳴った
「今 誰かいる?」
『村田氏がいらっしゃいますが』
「わかった 3人だね これから寄るね」
そう言うと切れた
「誰?」
『りえさん これから寄るとの事です』
「看板の照明落とした方がいいんじゃない?」
村田氏が笑いながら言った
素直に聞くことにした
暫くしてりえさんがやって来た
「お腹空いてたでしょ はいお土産」
見るとおでんだった
「BARでおでん?」村田氏が覗き込む
「何よう なら食べないで見てなさい」
「食べますよ」
『せっかくなので温めましょう』
奥からステンレスの鍋を持ってきてカウンターで移す
アルコールストーブで温めることにした
「マスター この店に住んでるの?」
『まさか』
「燃料は何?」
『燃料用アルコールです』
燃料用アルコールを注いで火をつける
丁度1回分の燃料が残っていた
「へ~ 面白いね」
青白い炎が次第に大きくなる
「オーッ 結構火力あるね」
鍋をのせた
暫くしてグツグツ煮えてきた
「BARでおでんもいいね」
「どうせならBGMも演歌にしない?」「私 テレサテンがいい」
言いたい放題だ
『・・・ありますよ・・・』
「冗談よ 本当に掛けないでよ」
BARから洋風おでん屋に変わるところだった
「これ 思ったけどどうやって消すの?」
エバニューはまだ燃え続けていた
『消さない 消えるのを待ちます』
「え~ 本当にぃ・・・」
りえさんが ”ふーっ” と息を吹きかける
「あれ? 消えない」
ふーっ ふーっ 村田氏と2人して何度も息を吹きかける が、
炎が広がるだけで消えない
『アルコールには息吹きかけないで下さいよ』『飛び散ると危ないですから』
「ご馳走さまでした」
『美味しかったです』
「珈琲あったわよね」
『ありますけど・・・燃料がもうないです』
「燃料ならいくらでもあるじゃない」
りえさんがいたずらっぽく笑った
視線の先を追った
アルコール度数96%のスピリタスだった