いつも通りの平日だった
カウンター席には常連の村田氏
たわいもない話でくつろいでいた時
2人の男女が入って来た
カウンター席の真ん中に陣取る
カップルというよりは先輩と後輩 もしくは取引先とその接待の帰りという感じだった
「俺はジントニックにするけど由依さんは?」
「じゃあ 私もジントニックを」
「そうだ どうせならシェーカーを振るのを見たくないかい」
「そうだなぁ マルガリータなんかどうかな」
「マスター 彼女にはマルガリータを」
マルガリータはテキーラをベースにしたスノースタイルのショートカクテルだ
Basilでは
テキーラを45mlで切りコアントローを30mlで切る
ライムを搾りシェイクする
グラスの縁に塩を全体につけたショートグラスに注ぐ
マルガリータと言う女性の名がついてはいるがはっきり言って強いカクテルだ
ライムが入らなければほぼストレートで飲むのと度数は大して変わらない
”由依”と言う名の女性の方を見る
一瞬瞳が僅かに動いた
『宜しければお勧めが御座いますが』
「と言うと」
『同じジントニックのジンを変えたバージョンなど如何でしょうか』
『お二人で飲み比べてみると面白いかと』
「わぁ なんか楽しそう 私それがいいです」
「じゃあ・・・それで」
男性にはタンカレーを女性にはビーフィーターの中で度数の低い方を出した
チェイサー用のグラスを添えて
暫くしてりえさんが来店した
村田氏を見つけていじっているようだ
ミラーを出してBGMを軽い曲に変えた
男性がお手洗いに向かい通り過ぎた時だった
先程の女性に呼ばれた
「マスター お願いがあります」
『何でしょうか』
「私の前にいてもらえませんか」
「あの人しつこくて・・・」
『・・・』
思ったより早く男性が戻ってきた
暫く近くでグラスを磨くことにした
女性は男性との会話の途中に度々私に意見を求めてきた
結果3人で会話することに
男性がイラついていることが手に取るように分かる
「マスター フィルコリンズの曲ある? よろしく」
この場から離れろと言うことだ
すぐさま女性が声をかける
「マスター 曲かけたらソフトドリンクのメニュー下さい」
「お勧めあります?」
結局 二人は1杯で店を後にした
10分後 女性の方が一人で戻って来た
「マスター さっきはありがとう」
「口説かれてたの?」
りえさんが笑顔で女性に話しかける
「はい 断れなくて・・・」
「だと思った マスターがカップルの前にずっといたから」
「男性の方は帰ったの」
「はい タクシー拾って 私は反対方向だと言って」
「それで戻って来たんだ」
「お隣どうぞ」
村田氏とりえさんが促す
今度は3人で盛り上がっている
男女の関係は複雑で難しい・・・
私ごときが口をはさむことではない
静かにBGMの選曲をしていた
Phil Collins
「One More Night」