その男性は言った
「ジョン・デンバーがあればお願いします」
『今あるのは Take Me Home, Country Roads だけなのですが・・・』
「それでかまいません」
【耳をすませば】というジブリ映画の
『カントリーロード』という曲と言えば分かり易いだろうか
『お聴きになりたかった曲は何という曲ですか?』
「 Leaving On A Jet Plane です」
「外国を渡り歩いている時聴いていた曲なんです」
懐かしそうな表情だ
若いが思い入れのある曲なのだろう
『分かりました そろえておきます』
その男性は何度かお見えになっていた
尤も一人では初めての来店だったが
「えっ いいんですか」
『私も久しぶりに聴きたいので』
日本では 【悲しみのジェット・プレーン 】
「すいません 可能なら他にいくつかあるのですが・・・」
余程 ジョン・デンバー が好きなのだろう ペンと用紙を差し出した
男性と話すのは初めてだった
眼鏡をかけた硬い印象とは違い丁寧で好青年といったところだろうか
一人で数年間外国を渡り歩いていたという
尊敬する 私には無理だ そんな度胸などないし英語も話せない
憧れだけはあるのだが
「マスターのお勧めはありますか」
男性はよくグレンフィディックを飲んでいた 今日もそうだ
世界で一番売れている三角形のボトルで癖がなく飲みやすい
『グレンリベットなどは如何でしょうか』
ありふれた返答だったろうか・・・
「う~ん・・・」
若い男性は少し考えている
「ではマスターの好きな銘柄は何ですか」
やはり普通だったようだ
『私ですか・・・アイラ・モルト・ウヰスキーを好んで飲みますが』
「ではそれをお願いします ロックで」
一瞬躊躇したが
アードベッグ 10年 をロックグラスに注ぐ
『口の中で歯茎をゆすぐように飲んで見て下さい』
「歯茎ですか・・・」
「うわっ!」
咽せた
「これ 凄いですね めちゃくちゃ歯茎に沁みます」
『生牡蠣にかけて食べると美味しいですよ』
『アイラ島ではそのようにしていただくそうです』
「へ~ 面白い しかしこれピートが物凄いですね」
「うん いいです これ」
如何やら気に入ってもらえたようだ
小一時間ほど男性の旅の話を聞くことが出来た
外国でヒッチハイクの一人旅
街の中や広大な大地で見上げた星の下で聴いたというジョン・デンバー の優しい歌声
支えになり心に響いたという
見た目とは違いだいぶ砕けた印象に変わった
帰られた後
紙に書かれた10曲近くのリクエストを見て思った
全ての曲が手に入ればいいのだが・・・
どんな曲なのか今から楽しみだ