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滑って転んだ

土砂降りの雨の平日

Basil には誰もいない

あまりの暇さにカウンター内の折り畳み式ストゥールに腰掛け
読みかけの一冊の本を手に取る

さらば愛しき女よ

レイモンド・チャンドラーの作品
探偵フィリップ・マーロウのハードボイルド小説だ
読むのは何度目だろう
眼が悪くなりそうなスポットライトの明るさでマーロウの世界へと入っていく

ドアが開いて一人の男性が入ってきた

見るとハーフのリカルドだった
頭を押さえている

「マスター 店の前の通りで転んだ」
「血が出ている」

『見せてごらん』
そう言うと彼は後ろを向いた

後頭部から血が出ている
よく見るとパックリと切れて開いている

急いでタオルを持って来た

手で押さえるとタオルが見る見るうちに赤く染まっていく
病院に行かないといけない

急いで表を見た
良かった タクシーが止まっている
運転手さんに近くの病院まで行くようにお願いして彼を呼びに戻った
店を閉め一緒に行こうとしたが一人で行けるからと断られた

地面には血の跡が店まで点々と続いて付いていた

マーロウならどう思うだろう
そんなことを考えていた

モップで落とし店へと戻る

後頭部を強く打っているので心配だ
やはりついていけば良かったと後悔したが後の祭りだ

外は相変わらずの土砂降りの雨

すぐに病院に行ったので大事には至らないだろう

何か疲れた・・・
今日は閉店時間が来たらすぐ閉めよう

そう思ってボーっとしていた

数時間が経った頃ドアが開く音がした

現れたのはリカルドだった

「マスター さっきはありがとう」

頭に網のようなネットをぐるぐる巻きの包帯の上にかぶっている
痛々しい

『縫ったのか?』

「うん だからもう大丈夫」
「ミラーを2つ」
笑いながらカウンターに座った

『何言ってんだ 今日は素直に帰りなよ』
何を考えているのやら・・・

「帰るよ 飲んだら  そのつもりで今日は来たんだから」
まるで駄々っ子だ

『傷口が開くぞ』

「大丈夫 縫ってあるから」
意味が分からない 天然なのを改めて思った

「出さないとコンビニで6本入り買って帰るよ」
飛び切りの笑顔で笑っている

呆れた
あまりのしつこさに根負けしてしまった

『1本だけだからな どうなっても知らないぞ』

リカルドはとても明るい
いつも笑っている
周りの人が元気になる
容姿端麗 黙っていれば渋い俳優かジャニーズにいてもおかしくないぐらいだ
ただ救いようがないぐらいの天然で純粋だ

包帯姿でバーでミラー飲むのは リカルド ぐらいだろう・・・
大事に至らなくて本当に良かった

何時の間にか疲れは吹っ飛んでいた

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