一見派手だが気品に満ち溢れた大人の女性だった
ピスタチオをつまみながらベリーニを軽く飲む
左手のルビーの指輪は何カラットだろう・・・
「息子の店の様子を見に近くに来たの」
「こんなところにバーがあったのね」
赤いフレームのメガネの奥から優しそうな瞳が微笑んでいる
『お店といいますと?』
「道向かいのレストラン」
「あれ?どっちの方向だったかな?」
Basil の中ではよく方向感覚が分からなくなる
『そうでしたか いつも息子さんにはお世話になっております』
道理でただならぬオーラが漂っていた訳だ
次男の息子さんはいくつものレストランを経営している
確か家業は長男の息子さんが引き継いでいる
手広く色々な業種を手掛ける地元では有名な方たちだ
たわいもない世間話に花を咲かせていると“ ナナ ”さんがやって来た
「ボウモア下さい」
そう言うと真中よりのいつもの席に座った
山積みに置かれたCDの前の席 最近はこの位置がお気に入りの様子
「お一人?」
「はい」
「ご一緒しない?」
親子以上にある年齢差だ
娘か孫のような感じなのだろうか ななさんと親しく話している
ストレートのボウモアとチェイサーのミラーを出す
ななさんの飲み方だ
「へ~ カッコイイわね」
「あなた ウヰスキー好きなの? 良かったら私の行きつけのお店にこれからご一緒しない?」
「えっ・・・でも」
一瞬ななさんがこちらを見た
ニッコリと笑顔で返した
どんなお店に行くのか興味があった
「あっ・・・はい・・・」
「じゃそれ飲んだら行きましょう」
「マスター それも私につけて お会計お願い」
暫くして二人は出ていった
どんな話が聞けるだろう
今度 ナナ さんに会えるのが楽しみだ
その日の Basil は忙しかった
一息ついたころ
スーッと音もなく ナナ さんが再び来店した
こちらを見ずにいつものカウンター席に座る
様子が変だ
『お帰り』
「ボウモア下さい」
斜め上を見て注文した
その瞳には涙があふれようとしていた
必死にこらえているようだ
『何かあった?』
「文句言われた」
「ガキ扱いされた」
「説教された」
かなり御立腹の様子
先程の女性は1杯飲んですぐ帰ったらしい
「ゆっくり飲んで行ってね」と
カウンターにはヘネシー ナポレオンのボトルキープがありそれを飲んでいたと言う
どうやら行きつけの店と言うのはスナックでそこのママさんやお姉さん方と色々あったようだ
本人曰く 早い話が高いブランデーを一人タダで飲む生意気な小娘に思われたらしい
誤解が生じたようだ
「もう〜 思い出しただけでムカつく」
『気分を変えて今度は私の行きつけのお店に行きませんか』
3:30 am 行きつけのお店でラーメンを食べた
Bar の方が良かっただろうか