バー ” Basil ” に着くと空気が冷え切っていた
店には業務用エアコンが2台ある
あまりの寒さに暖房のスイッチを入れようとしたが止めた
暖かくなるのは良いが ” もぁ~ ” とした空気がどうも好きになれなかった
顔がこわばるなか石油ストーブに火を入れた
石油ストーブは1台しかない 店全体を暖めることは不可能に近い
ブルブル震えながらも手をかざすと暖かい
キリッと氷のように張りつめた暗く冷たい空間に赤い炎が灯る
完全燃焼するまでの暫くの間ぼんやりと何も考えずに炎を眺めていると ” 村田氏 ” が入って来た
「おっ 石油ストーブ」
『申し訳ございません 只今開店しますのでしばらくお待ちください』
全ての間接照明を入れる
「大丈夫 僕のことは気にしないで 開店前でしょ マスターが店の中に入って行くのが見えたから ついね」
村田さんは皆から”村田氏”と呼ばれている 学生の頃より秀才だったからついたあだ名と聞いている
「この灯油の匂いが良いよね・・・」
めずらしくしんみりしている
カウンターのキャンドルに火を灯していると ” りえ ” さんが豪快に笑いながら入って来た
「開店前なのに村田氏が入って行くのが見えたから来ちゃったわよ」
「1杯おごりなさいよ はいこれ お土産 2人で食べて」
一気に明るい雰囲気に変わった 店の温度が5℃上がったようだ
暖房よりも笑い声の方が暖まるようだ
飲み物を作っている間2人とも雑談で盛り上がっている
ふと思った
先程村田氏がふと見せたしんみりした後姿 何か聞いてほしい事でもあったのだろうか・・・
考えるのは止そう
寒い日はどうもネガティブ思考になりがちだ