雨の降る寒い日の平日のことだった
その日は早くからずっと霧状の雨が降っていた
待てど暮らせど一向に客足が伸びない
こんな夜は棚のボトルを徹底的に磨くことにしている
1段目のボトルを磨き終えたころ普段は滅多に開けることのない窓を開いた
肌寒い新鮮な空気が頬を撫でる
いつも満車に近い隣の駐車場が静まり返っていた
眠気覚ましに珈琲を淹れた
ブッシュミルズ (BUSHMILLS)
耐熱グラスに45mlで切り珈琲で満たす
ブラックのアイリッシュコーヒーだ
ノンピートの為珈琲の香りを楽しめる
営業中にはやらないことだ
これがいけなかった
カウンターの中に置いている折り畳み式のストゥールに腰掛ける
CDのジャケットを広げ歌詞を何気なく見ていた
すっかり体が温まり不覚にもついうとうととしてしまった・・・
ふと目が覚めた
いつの間にか寝てしまったようだ
10 分？ 20分？
どのくらいの間寝ていたのか分からない
BGMはまだ流れていた・・・
背伸びをしながらそのまま固まってしまった・・・
「おはようございます」
目の前のカウンター席に2人 カップルが座って微笑んでいる
『！』
『すいません 気がつかなくて』
恥ずかしくて一気に目が覚めた
「いいえ そーっと入ってきましたから」
忍者のようなジェスチャーしながら男性は爽やかな笑顔で笑った
あまりにも気持ちよく寝ていたので起きるまで観察していたようだ・・・
「白目向いてよだれ垂らしながら笑っていましたよ」
それは絶対にない・・・と思う
いたずらっぽく笑う笑顔が素敵な女性だった
二人とも初めてのお客様だ
爽やかな好印象な目鼻立ちの整った男性といたずらっ子のような髪の長い綺麗な女性だった
美男美女とはこういう人のことを言うのだと思った
「ミラーを2つ 良かったらマスターもどうぞ」
失礼なことをしてしまったのに奢ってもらった
2人にいじられたが面白おかしく楽しいひと時を過ごした
尤も楽しく過ごしたのは私の方だが・・・
バーテンダーとしては絶対にあってはならないことだ
肝に銘じておこう
と思ったが・・・大したお店でもないので・・・と
ついずぼらな性格が出てしまう・・・
自戒
