平日の雨の日だった
L字型のカウンター席の端に男女が二人
カップルだろうか
男性はブラック・ルシアンを 女性はシンガポール・スリングを飲んでいた
男性がたまにぼそぼそと話す程度
女性はグラスをジッと見ている
他に客はいない
静けさが全てを物語っているようだった
男性の方がゴッド・ファーザーを頼んだ
「リクエストいいですか」
男性のリクエストはアイズレー・ブラザーズだった
シルクの似合う夜 アイズレー・ブラザーズ
「この曲 思い出の曲なんです」
そういうと日焼けした顔で爽やかに笑った
「僕たち明日離婚するんです」
「二人にとって今日が最後の日なんです」
言葉を失ってしまった
女性と目が合った
悲しそうな笑顔 しかしすごく綺麗だと思った
理由は分からない 何かが吹っ切れた笑顔だったのかもしれない・・・
それとも相手を思いやる笑顔だったのか・・・
BGMに悩んだ
この雰囲気に合う曲なんてあるのだろうか・・・
80’sが好きだと言っていた
バラードは重い かと言って軽い曲は雰囲気的に合わない
雨の日に合うような曲を選んだ
スムース・オペレーター シャーデー
ミキサーで外と同じように雨の音を小さくバックグラウンドで流した
そのうち雨も晴れることだろう
